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大阪高等裁判所 昭和28年(ネ)424号 判決 1954年12月03日

控訴人 被告 平井徳之祐 外一名

訴訟代理人 栗須一 外一名

被控訴人 原告 大蓮寺

代表者主管者 秋田嘉明

訴訟代理人 水田猛男

主文

本件控訴を棄却する。

原判決中控訴人等に関する部分を次のように変更する。

控訴人等は被控訴人に対し大阪市天王寺区下寺町一丁目四三番地甲地上にある木造平屋建工場建坪一〇坪、住宅建坪五坪、物置建坪五坪及び壜洗場建坪四坪を収去して右敷地五八坪を明渡せ。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

この判決は被控訴人において、控訴人等に対し金三万円の担保を供するときは、主文第二項につき仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求(拡張請求共)を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、且つ当審において請求を拡張し主文第三項同旨の判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出、認否並びに援用は被控訴代理人において「控訴人等は原審判決後何等の権限なしに本件敷地上に壜洗場建坪四坪を建築共有し右敷地を不法に占拠しているから、控訴人等に対し原審で収去を求めた建物の外に右壜洗場の収去をも求める。なお、控訴代理人の当審における後記主張に対し、本訴は代位請求によるものであるから、右主張はいずれも理由がない。と述べ、控訴代理人において「(一)被控訴人の提出した甲第一号証(御願ひ並に誓約書と題する書面)は、本件係争土地が被控訴人の所有に属するものと誤解し、その前提の下に取交わされたものであるから、被控訴人の所有でないことが明らかである本訴においては法律上何等意味のないものである。すなわち、被控訴人は本件土地の所有権、その他他人の使用、収益又は占有を排除し得べき何等法律上の権原のない本件土地につき控訴人等にこれが明渡返還を約せしめるのは、恰も遺失物を拾得した事務管理者に対し真の所有者でない贊称所有権者がその返還を約せしめるのと同様であつて、前記書面による本件明渡の約定は法律上の効果を発生する余地のないものである。(二)被控訴人の本訴請求は、被控訴人が昭和一四年法律第七八号(昭和二二年法律第五三号により改正)に基き本件土地の無償譲与を申請し、他日本訴において勝訴するか又は控訴人等から任意右土地の明渡返還を受けた暁は、右土地の無償譲与を受けるべき期待権を有することを理由とするようであるが、斯る期待権を有することは控訴人等の本件土地占有を奪うべき理由とならない。(三)仮に被控訴人が曽て本件土地の無償貸付を受け、その後前記法律の規定に基き無償譲与の申請をなしたとしても、右法律は明らかに憲法第八九条に反する無効のものであつて、前記法律の適用を前提とする本訴請求は失当である。」と述べ、当審証人中村貞次の証言及び被控訴代表者本人秋田嘉明並びに控訴本人平井徳之祐の各尋問の結果を援用した外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

原審が原判決理由に示した判断は当裁判所においてもこれを正当と認めるから、その記載をここに引用する。なお、被控訴代理人は当審において請求を拡張したから、その点について判断するに、控訴人等が原審判決後被控訴人において控訴人等に対して明渡を求める本件敷地上に壜洗場建坪四坪を建築し共同使用していることは当審における控訴本人平井徳之祐の尋問の結果により明らかであるから、被控訴人は控訴人等に対し本件工場建坪一〇坪住宅建坪五坪及び物置建坪五坪について示したと同じ理由により本件敷地上にある右壜洗場の収去を求める権利を有するものといわねばならない。当審における控訴本人平井徳之祐の尋問の結果中叙上認定に添わない部分は右認定の資料に供した証拠と対照してたやすく措信し難い。

次に、控訴代理人は当審において、(一)被控訴人の提出した甲第一号証(御願い並に誓約書と題する書面)は本件係争土地が被控訴人の所有に属するものと誤解し、その前提の下に取交わされたものであるから、被控訴人の所有でないことが明らかである本訴においては法律上何等意味のないものであつて、被控訴人が右書面によつて本件土地の所有権その他他人の使用、収益又は占有を排除し得べき何等法律上の権原のない本件土地につき控訴人等にこれが明渡返還を約せしめても、法律上の効果を発生する余地がないと抗争するが、たとえ右甲第一号証が控訴代理人主張のように作成名義人により錯誤に基いて作成せられた上取交わされたものとしても、それはただ同号証の信憑力の問題にすぎないのであつて、同号証が証拠能力を有していることには何等影響を及ぼすものでないばかりでなく、当裁判所が前段において認容した被控訴人の本訴請求は前記書面による土地明渡の約定に基くものでないから、控訴代理人の右主張は採用できない。

更に、控訴代理人は、(二)被控訴人の本訴請求は被控訴人が昭和一四年法律第七八号(昭和二二年法律第五三号により改正)に基き本件土地の無償譲与を申請し、他日本訴において勝訴するか又は控訴人等から任意右土地の明渡返還を受けた暁は、右土地の無償譲与を受けるべき期待権を有することを理由とするようであるが、斯る期待権を有することは控訴人等の本件土地占有を奪うべき理由とならないというのであるが、被控訴人の本訴請求は土地の借主である被控訴人がその借主としての権利を保全するため、貸主にして所有者である国に代位して、土地を不法に占拠している被控訴人等に対し妨害排除の請求権を行使するものであつて、控訴代理人のいうように被控訴人が将来右土地の無償譲与を受けるべき期待権を有することに基いて本件土地の明渡を求めるものでないから、右主張も採用の限でない。

終に、控訴代理人は、(三)被控訴人が本訴請求の根拠とする社寺等に無償で貸し付けてある国有財産の処分に関する法律(昭和二二年法律第五三号により改正された昭和一四年法律第七八号)は憲法第八九条に反し無効のものである旨抗争するから、この点について審究する。憲法第八九条は宗教上の組織又は団体の使用、便益若しくは維持のために公の財産を支出し又はその利用に供することを禁じているのであるが、前記法律が国有地である寺院等の境内地その他の附属地を無償又は低額で寺院等に譲渡することとしたのは、新憲法施行に先立つて、明治初年に寺院等から無償で取上げて国有として保管していた財産を寺院等に返還する処置を講じたものであつて、右のような由来のない単なる国有財産を寺院等に無償で貸付や譲渡する処置を講じたものでないから、同法律は憲法の前記法条の趣旨に違反するものでない。それ故右主張も亦採用に由ない。

従つて、控訴人等は被控訴人に対し本件土地五八坪上にある前記木造平家建工場建坪一〇坪、住宅建坪五坪、物置建坪五坪及び壜洗場建坪四坪を収去してその敷地である右土地を明渡すべき義務あるものといわなければならない。

そうすると、被控訴人の本訴請求は正当であつて、そのうち被控訴人の当審における請求拡張前の請求を認容した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がなくこれを棄却し、被控訴人の請求拡張により原判決とは一部符合しないこととなるからこれを変更すべきものと認め、民訴三八四条九五条八九条一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 林平八郎 判事 竹中義郎 判事 入江菊之助)

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